更新日 2007/06/25 09:42


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大阪府立東住吉高等学校
ラグビーフットボールクラブ

東住吉ラグビー物語 2002年岡田組〜2007年湯浅組に至る東住吉高校ラグビー部の記録

2005年 体育祭


注意/朝日新聞社掲載文を転記しています。

各候補の名前の下に正の字が増えていった  

役付き選挙 体育祭 あこがれの総大将


  放課後、教室の空気はピンと張りつめていた。平野区の府立東住吉高校(ヒガスミ)で恒例の「選挙」が始まった。生徒会役員を決めるものではない。1カ月後に迫った体育祭の花形を選ぶ選挙だ。

  同校の生徒たちの多くにとって、体育祭は1年で一番の張り切りどころだ。力が入るのは、100メートル走や騎馬戦といった競技ではなく、赤、白、緑、青の団ごとに競う応援合戦。

  これを仕切るのは各団の「役付き」の3年生たちだ。トップは「総大将」。羽織(はおり)袴(はかま)姿で名乗りを上げ団の勝利を願う口上を披露する姿は、後輩たちのあこがれのまなざしを集める。体育祭の前後、廊下を歩けば、握手を求められる。あいさつを交わしてすれ違えば、背中で歓声が聞こえる。

  だから、目立ちたがり屋は、1年生の時からその座を狙っている。

  1組と7組でなる赤団の総大将には、2人が名乗りを上げた。1組のリョウスケと7組のユウキ。投票に先だって、73人のクラスメートの前で支持を訴える演説に立った。

  はじめはユウキ。「選んでよかったと思わせる。おれにやらせろ。押忍(おす)」。硬派だった。

  リョウスケは「人生最後の体育祭。一生残る思い出にしよう」と訴えた。ジーンとさせた。

  わら半紙の紙片が次々と開かれ、黒板に正の字が並ぶ。接戦になった。選ばれたのはリョウスケ。発表の時、「よっ」というかけ声とともに一番大きな拍手を送ったのは、ユウキだった。

  別の団の教室には、抱き合って泣く女子生徒がいた。片方は勝った子、もう一方は負けた子。役付きの一つ、「応援副団長」を争った。ふだんは仲良し同士だから、勝った方も切なくて涙が出てしまう。

  落選した生徒の中には、例年ショックのあまり翌日学校を休む子もいるという。

  「落ちたことを引きずっていたら体育祭は楽しめない。目標を団の優勝に置き換え、気持ちを切り替える努力をするようです」と先生。

  ヒガスミが本気になる1カ月が始まった。本番は5月21日。  

伝授式 先輩と円陣、伝わった心


日が落ちた公園。新芽がきれいな芝生の上に、18人が集まった。近づく府立東住吉高校(ヒガスミ)の体育祭で、応援団長など白団の「役付き」に決まった3年生9人と、去年務めた卒業生9人。新旧の仕切り役が顔を合わせる「伝授式」だ。

 伝えるのは「型(かた)」。団ごとに何十年も受け継がれてきた応援の振り付けだ。見よう見まねで先輩に習う。

  先に現役3年生がやってみせた。応援団長ナオヤと副団長マキコが先頭に立つ。2人は去年も白。しっかりおさらいをしてきたから、ほとんど完璧(かんぺき)だった。

  続いて先輩。途中から、あやふやになった。「全然伝授になってないやん」。笑いが広がった。

  それから車座になって、先輩たちがアドバイス。

  ――当日は出番のない裏方役にも感謝の言葉を忘れずに。団が一つにならなければ、優勝には届かないし、何より楽しくない――。

  先輩の胸には、1年前のあの日が刻まれている。アイコは開会式での校長の話が忘れられない。「君たちは今、世界の中心にいます」。本当にそんな気がしてゾクッとした。ヒロキは時々、体育祭のビデオを見返す。泣いている自分を見て、また泣けてしまう。

  卒業後も食事をしたり花見に行ったり、よく集まる。「あの時の気持ちに戻りたい」。後輩たちは、ちょっとうらやましそうだった。
 
最後に全員で円陣を組んだ。心は伝わった。  

スタンド 番線巻きに職人の誇り


 府立東住吉高校(ヒガスミ)の体育祭のもう一つの舞台がスタンドだ。生徒が団ごとに座り、仲間のプレーに声援を送る。校庭だから、もともとはない。2週間かけて、スタンド班の生徒が作る。

 100本近い丸太を組み合わせ、番線(ばんせん)と呼ばれる太い針金で固定する。縦横各8メートル、高さは高いところで2メートル。240人いる団の全員がのっても崩れない強度が求められる。くぎは一本も使わないのが伝統だ。

 見た目も美しくなければならない。柱はきっちり垂直に立てる。座面はなだらかな傾斜に。本番当日、先生が出来栄えを審査し、順位をつける。団の得点に加算される。

 だから、いい加減な仕事は許されない。

 緑団のスタンド班長、ヤスオは10日間かけて、設計図を描き、割りばしで模型を作ってから、作業に臨んだ。「雨が心配。作業が遅れるし、番線がさびて強度が落ちるから」

 赤団のミヨは1年生の時、応援団にあぶれて仕方なくスタンド班に入った。「番線巻き」の奥深さにとらわれ、そのまま3年間続けることに。完成させたばかりのスタンドに腰掛け、応援団の最後の練習を眺める。その瞬間が好きだという。

 2人は言った。「こんな大きいものを作るのは一生に一度くらいですよね」「スタンドがなければ、体育祭の迫力は生まれないから」。「職人」の誇りが見えた。  

生徒会役員 仕事山積み 「陰の主役」


府立東住吉高校(ヒガスミ)の体育祭には、どの団にも所属せず競技にも出場しない生徒が7人いる。審判や得点係、進行役などを中心になって務める生徒会役員たちだ。

 本番前にも地味な仕事が山ほどある。プログラムや進行表の作成。はちまきやバトンといった備品の確認――。

 午後7時の下校時刻が過ぎたら、各団の活動場所を見回る。生徒が残っていたり、ゴミが落ちていたりすれば、本番当日の得点を減点する。練習や準備に熱中するあまり、ゆるみがちになる空気を引き締める。

 しかし、その働きはあまり知られていない。

 総務部長のショウタは唯一の3年生。去年の体育祭も生徒会役員だった。

 花形の応援団に入って校歌を叫び、伝統の型(かた)を披露する。そんな姿に魅力を感じないわけではない。でも4月の生徒会役員選挙で候補者がそろわなそうだと聞いた時、迷わず手を挙げた。

 去年の今ごろは、もやもやを抱えていた。一番遅くまで仕事しているのに、団の活動に忙しい友人に「毎日、何してるの」と言われた。自分は何のためにがんばっているのか?

 しかし、秋の文化祭の注目企画「ヒガスミ・ランキング」。全校生徒の投票で「陰でがんばっている人」部門の1位に選ばれた。うれしかった。

 「生徒会なくして体育祭は始まらない」。今年は、自信を持って言い切れる。  

リハーサル 応援の太鼓 響きに震え


 右足を引き、ばちをかまえた。ドドンドドドドド……。応援団の仲間たちが全速力で入場してくる。本番ではないのに、足が震えてきた。

 府立東住吉高校(ヒガスミ)で19日、体育祭のリハーサルがあった。応援団の太鼓役にとっては、本番用の太鼓を試せる貴重な機会。練習ではあまり使えない。「やっぱり響き方が全然違う」。赤団のアヤは言った。

 ダメもとで手を挙げた太鼓役だった。「マイペースでおっとり」「いつも眠たそう」。友達や親からよく言われる。そんなイメージを変えてみせたかった。

 役付きを決める選挙の立会演説では、袖をまくり力こぶをして、みんなを驚かせた。どうしてもやる気を伝えたかったから。太鼓役に決まった時は、うかれてしまった。

 やってみると、太鼓は想像以上に難しかった。5分余りの流れを覚えるのに何日もかかった。音にのりきれず、ほかの3人からは少し遅れてしまう。家に帰ってからも、座布団を麺棒(めんぼう)でたたいた。腕の筋肉痛がひかなくなった。

 中1から地元の太鼓チームに入っているリウは根気よく教えてくれるし、ナオトとマミも「大丈夫」「あせらんといこう」と励ましてくれる。絶対、成功させたい。

 4人の音はだいぶ合ってきたけれど、リハーサルではミスもでた。本番は21日。あと1日、やるしかない。  

本番 青春の日 「必笑必勝」


府立東住吉高校(平野区平野西2丁目)の体育祭が21日、同校校庭で開かれた。全校生徒約千人が赤、白、青、緑の4団にわかれて競い、青団が総合優勝、緑団が総合準優勝を飾った。

 創作ダンスを披露する「アトラクション」。応援団と並ぶ、花形の一つだ。緑団の52人の手首と足首には、おそろいのミサンガがついていた。

 2週間前まで、班の中はぎくしゃくしていた。女子は、男子がふざけながら振り付けを考えているのが気に入らない。男子には「まじめに考えるだけではダンスは生まれない」という考えがあった。互いに陰で不満を口にした。何も進まない日が1週間続いた。

 タケノリやテツヤの呼びかけで、3年生19人が公園に集まった。「明日からすっきりしたい。今日は言いたいことを言おう」。1時間半、意見をぶつけ合った。

 おかしいくらい、急に仲良くなれた。カップルが5組も生まれた。「緑団のアトラクが一番青春してるんやないかな」。優勝もついてきた。
   
 生徒たちが陣取るスタンドの背後には、各団の「マスコット」がそびえていた。角材や竹で作った骨組みに新聞紙を張って作った。縦横各5メートルはある。

 赤団は歌舞伎「暫(しばらく)」の「鎌倉権五郎」。勧善懲悪劇の主人公に、勝利の願いを託した。考えたのは、ドラマに出ていた市川染五郎に一目ぼれしたのがきっかけで、歌舞伎にはまっているクミエ。

 3年連続のマスコット班。本番の前日、団のみんなでロープを引っ張り立ち上げる瞬間が好きだ。マスコットに命が吹き込まれるようで。

 「権五郎」には眉毛が動く仕掛けをつけた。「男前、大空が似合うよなあ」。声が弾んだ。21日、青空が広がった。
   
 応援合戦の後、健闘をたたえ合う輪から離れて、ひとりむせび泣く学ラン姿があった。白団の応援団長ナオヤ。

 本番でミスをした。出だし。太鼓の合図を一つ無視した。団のみんなが観客に背を向けたまま「型」を始めることになってしまった。「みんなにどう謝ったらいいか」

 閉会式。「応援……優勝、白団」。その瞬間、思わず「奇跡だ」と叫んだ。総大将のカズヤが解説した。「ハプニングを挽回(ばんかい)したくて、みんな、これまでで一番大きな声が出ていた」

 白団のスローガンは、ナオヤが考えた。「必笑必勝」。最後は、その通りになった。

●青団が総合優勝

 短距離走やリレー、騎馬戦など13種目ある競技と、応援など4部門の出来を教員が審査してつける各得点の合計で、順位が決まった。青団は各競技で着実に点を稼ぐ一方、4部門のうちマスコットとスタンドの2部門で優勝、2位以下に大差をつけた。渋谷良太総大将は「めっちゃしんどかったけれど、最高の思い出になった」と話した。

 4部門の優勝(@)と準優勝(A)は次の通り。

 【応援】@白、赤(同点優勝)【アトラクション】@緑A白、赤(同点準優勝)【スタンド】@青A赤【マスコット】@青A赤  

伝統の「型」を披露する赤団の生徒たち。 
後ろはマスコットの「鎌倉権五郎」

[記者ノート]  

高校の体育祭に行ってみては


 張り上げすぎて裏返ってしまうほどの大声なんて、久しぶりに聞いた気がした。21日に開かれた府立東住吉高校、通称ヒガスミの体育祭。午後7時、取材を終えた帰り道で、真っ赤に日焼けした応援団長の顔を思い出しながら、すがすがしい気分になった。

 4月下旬から大阪版に随時掲載した「ヒガスミの本気」で、体育祭に取り組む同校の生徒たちを取材した。

 別の取材でお世話になっている同校の写真部顧問の先生の話がきっかけだった。「うちの高校の体育祭はちょっとおもしろいんです」

 何十年と受け継がれてきた「型(かた)」を披露する「応援団」と創作ダンスを見せる「アトラクション」、丸太で応援席を作る「スタンド」、巨大な張りぼてを仕上げる「マスコット」の4部門に分かれ、何週間も前から連日準備する。仕切り役となる総大将や応援団長などはあこがれの的で、選挙で決める。当日は100メートル走や騎馬戦といった競技もあるけれど、あくまで「つま」。生徒は各部門の優勝をめざし、勉強がおぼつかなくなるくらい、一生懸命になる――。

 放課後のグラウンドで、生徒たちにがんばる理由を聞いた。「かっこよかった先輩の姿が忘れられない」「選挙で負けてしまった親友の分まで」「地味だけど大切な役目だから」「あの優勝の味をもう1回」

 初夏の日差しの中、連日続く厳しい練習や準備は、体力的にもきつい。あざやまめ、筋肉痛も避けられない。人間関係も、はじめからうまくいくとは限らない。迫る本番と進まない準備に、胃が痛くなる。

 閉会式。各部門の優勝が発表されるたびに、大歓声が上がり胴上げの輪ができた。準優勝でも悔し涙を浮かべる生徒がいた。

 総合優勝した青団の総大将が言っていた。「中途半端な気持ちだとだるいだけ。本気になれば、しんどいけど、おもしろい」。「青春」を言い当てた言葉だと思った。

 連載中、OBの方からメールをいただいた。30年近く前に卒業した男性は「四つの団の隣に“OB団”のマスコットを建てようと声を掛けたら、たぶん『高校生に負けるな』と立派なものが建つように思います」。20代の女性は今も、高校時代の友人と集まった時に体育祭のビデオで盛り上がるという。

 反響は、別の高校に通う現役の生徒からも届いた。話を聞かせてもらうと、彼の高校にも、各団が総団長の指揮のもと、応援やマスゲーム、仮装などの出来を競う、東住吉高校と似た仕組みがあるとのこと。本番は9月で、今から準備にかかっているという。「記事を見て『こんなんまだまだや』と思った。僕の高校のほうがもっと熱い。どこにも負けない自信があります」

 みなさんも、お近くの高校の体育祭に出かけてみてはいかがでしょうか。もしかすると、ちょっといい気持ちになれるかもしれません。

中山 彰仁